経営破綻(はたん)した日本振興銀行に対し、金融庁が初めてとなるペイオフ発動に踏み切ったのは、振興銀が定期預金のみを扱う特殊な銀行で、破綻認定しても「金融システムの安定性に影響を与えることはない」(自見庄三郎金融担当相)と判断したためだ。
預金を一定の範囲で保護する預金保険制度は、71年に導入された。政府は90年代の金融危機時、不安拡大を抑えるため、特例措置としてペイオフを凍結し、預金を全額保護していたが、02年に定期預金、05年に普通預金のペイオフ凍結を解除。それでも、03年のりそな銀行や足利銀行の破綻時は、金融システムや地域経済へ重大な影響が及ぶと判断したため、公的資金投入によって国有化することで預金を全額保護した。
しかし、振興銀は普通預金や決済性預金を取り扱っておらず、金融機関同士の決済に使われるシステムにも入っていない。企業の決済などには利用できないため、金融庁は「他の金融機関へ影響が連鎖する可能性はほとんどない」と判断した。預金残高が小規模なうえ、1000万円を超える預金者が少ないことも、金融システムに影響が薄いとの判断を後押ししたようだ。
一方、振興銀は04年の設立後から、「破綻しても1000万円とその利子までは国が保護する」ことをうたい文句に、他行より高金利で定期預金を集めてきた。3月末時点の預金残高は前年同月末比で4割以上も増加。ペイオフを意識した1000万円以下の預金がほとんどで、金融庁は「制度を悪用したモラルハザードだ」(幹部)との批判を強めていた。【中井正裕、清水憲司】